
ケースサイドのミラー面が縦方向を強調し、スマートな雰囲気を作り出しています。ボックスガラスが稜線の美しいケースに柔らかさを与えています。

ケーストップはヘアライン仕上げのフラット面。ケースサイドのミラー斜面はケースを小ぶりに見せる効果があり、面の幅の変化が、伸びやかさを感じさせます。

ボックスガラスのアールがそのままケースへとつながる心地よくおおらかな面。

ケースと裏ぶたの合い面が隙間なくつながって、すっきりとした印象を与えます。

縦長の細いアラビアフォントがすっきりとした美しさを生み出しています。文字板は色や仕上げに変化をつけて、モダンでしゃれた雰囲気が醸し出されています。

ヘアライン仕上げとミラー仕上げのコントラストが明快で、縦方向の流れを意識させるフォルム。

時分針の長さの差が小さいですが、長めな針にすることでエレガントに感じます。針の先端はゆるやかにカーブ。時針の根元が極細で、くびれに強弱があり優美さと軽やかさをあらわす要素となっています。
ENGINEER'S EYE
狂騒の時代の時計
1931年。関東大震災から復興した東京の光景は一変していました。近代的な消費文化の本格的な到来の中で、ひとびとは腕時計を求めており、10½型のCal.Fは急いで作られました。
当時のシチズンには「自分は国産の時計を作るために生れて来た」と語る熱心な技師がいたとも伝えられていますが、彼らによる開発のスピード感とセンスはいかにも狂騒の時代に相応しいものでした。輪列配置は定型的な中二針小秒針構造そのものですが、複数のブリッジデザインがあり、あるものは三番車周辺を大胆に開口、立体的に仕立てられました。外装デザインも舶来品の流行を取り入れたデコラティブなものへ展開。
トノータイプのほか、戦後X-8やアンデスのデザイナーが「再発見」したともいえるラグなしタイプなども当時のカタログに見ることができます。
発売された当初こそ輸入品に押され気味でしたが、徐々に売れ行きも伸びていきました。戦後しばらくまで長くシチズンを支えてくれた、忘れがたい時計です。